夏の巻 第二章 真夏の恋 

五十七 物忌の夜

宮の宰相は、四の君との人目を忍ぶ恋路の逢うことのままならぬ辛さに、嘆いたり沈んだりしながら、心を交わせ合い折々の逢瀬に心を慰めておられるのでございました。

宰相ノ中将の女好きの癖は限りがないほどで、一人だけでは気が済まず、真面目な中納言が聞いたら具合いがよくないほどでございますが、宮中の宣濯殿(センヨウデン)におられる尚侍(ナイシノカミ中納言の兄)は中納言の妹で、美貌で知られていて、宰相ノ中将は「人に気を遣わなければいけない四の君との苦しさも、尚侍と逢えば慰められるだろう」と都合よく考えて、さっそく宰相ノ君という侍女を口説き落として、物忌(モノイミ)が厳重で尚侍が東宮御所の女一の宮のおられる梨壺に出向なさらぬ夜、宣濯殿にお忍びになられたのでございます。

尚侍の君は、「驚きあきれることよ」と思われましたが、すっかり動転しておられるのでございます。とはいえ、思慮深く謹んで身を動かそうとはなされなかったので、宮の宰相は涙ながらに懇願されたのですが、朝が明けてしまい出られなくなってしまったのでございます。

風変わりに、互いに「困ったことだ」と思うしかなく、厳重な物忌にことづけて、帳(トバリ)の覆いを下ろし、母屋の御簾(ミス)も下ろしてしまい、困惑した侍女二人に見張りをさせ、下なる人が上に来ないようにしてしまったのでございます。

宰相ノ中将は、美人で名高い尚侍の姿を「慕わしくてしようがなかった」と申し上げ、「とくと拝見したいところです」といって、全てを忘れて夢中になっているのでございました。

小柄ではありますが、手当たりは普通であるのですが、御髪(ミグシ)は豊かかつゆるやかで、思うままに見える顔は、中納言を少し上品にして薫る様であり、清らかな様子は奥ゆかしく、若々しく優雅でございました。

気を遣いながら心を尽くす右大臣の四の君は、上品で美しく濃やかで懐かしいくらい可愛くて、似ている者がいない程でございます。尚侍の方は、匂うような雰囲気が素晴らしく、目もくらむような光がこよなく優れているのでございます。精も根も尽き果てるくらい懇願したのですが、大変しなやかで、上品で若々しいのですが、靡く様子は見られなかったのでございました。

心は惑い涙も落ちるほど懇願し尽くして、その日も暮れ、そして夜も明けるころになり、尚侍が「物忌が終われば、大殿も参りますし、中納言も参ります。この様に仕方がないので、まことに深き御心でございましたら、志賀の浦を思って出て下されば如何に嬉しいことでしょうか」と聞こえる声の何ともいえない愛嬌があるのも本当に中納言の様であるのでございました。

のちにとて 何を頼みに 契りてか

  かくては出でむ 山の端の月

(後に逢うといっても、何を頼みに約束するのでしょうか。これでは、山の端の月は出るでしょうか。)

尚侍は、「思いもよらないしぐさです」とも言い終わらない内に、

志賀の浦と 頼むることに 慰みて

  後もあふみと 思はましやは

(志賀の浦に吹く風の様に、貴方から来る手紙を頼りにして心を慰めています。後にあって下さることを願っています。)

「我が君よ、よくご配慮下さい」と美しい声で仰るので、むやみにごねるのも無理があるので、魂に思い出を留め置いて、虚ろに外に出られたのでございました。


五十八 宰相ノ中将の悩み

その後は尚侍(ナイシノカミ)からの手紙の返事は全くなく、天にまします程離れてしまい、すかされ出てしまったことが悔しく哀しいのでございました。今は恋いこがれてしまい「何かの機会はないだろうか」と内裏(ダイリ宮中)にいつもおいでになるのですが、中納言が参内(サンダイ)なさる姿は、全く普段と変わらない顔つきで、上品で若々しい気配は奥ゆかしく、華やかで今様でこぼれるばかりに愛嬌があるのをみていると胸がつぶれる思いになるのでございました。

人目も耐えることが出来ず涙がこぼれて来るのを、中納言は「これは変だ」と思っていると、宰相ノ中将が「小さい頃から隔てなく見慣れていますので、正直にいいましょう。心が乱れて苦しくなるばかりで、長生きが出来そうにないのですが、余計に当惑して心弱くなっているのです」と目に指を当てて拭われるのでございました。

中納言は「誰でも千年の松ではないので、相手と先だったり遅れたりして露の様にはかなくて、あはれという他はありません」といっても心の内は「如何にまろを愚かだと思っているだろう」とはしたなく思うのですが、懐かしく語りかけられたのでございます。

宰相ノ中将は、心を合わせている四の君と、人目をはばからず見聞きされてしまうと、恥ずかしいことになってしまうので、互いに包み隠しているのですが、それが長くつづくと、逢い見た後は・・・夢よりも本当に儚くて、難しい状況に遭遇(ソウグウ)してしまったと思われるのでございました。

もう一方の尚侍(ナイシノカミ)とも、すかされ部屋から出てしまい、今はいよいよつれなく離れてしまい、枕もとや足もとから恋の想いが沸き上がって責めてくる様な心地になるのでございました。

五十九 夏の日の戯れ

宰相ノ中将は、四の君と尚侍(ナイシノカミ)の恋に袖を濡らしながら、双方の形見と想い中納言ににわかに会いたくなったので、「たいして理由はないけれどもかまわないだろう」と思い、右大臣宅にいらしたのですが、「外出中でございます」とていなかったので、内裏の方ではないかと思い、そちらに行かれたのでございます。尚侍のところへ行ってみたいと思われたのですが甲斐がないので溜息をついて、「中納言は何処へおられるのか」と問われますと「大殿の宅におられます」と聞いたので、そちらの方に行かれたのでございます。

ほとんどお忍びで、中納言の部屋のある西の対に入りますと、たいそう蒸し暑い日で中納言は装束の紐を解いていたのでございます。宰相ノ中将に気づくと、「これはどうも、失礼な格好をしているので」とて奥に入ろうとするので、「我が君、気になさらないで」といっても聞かないので、女もいない所なので、心やすくつづいて入って行かれると、中納言は「ほんとに見苦しい格好ですが」と笑って腰下ろされたのでございます。

心が落ち着かず、しばらく面していないので、寂しいのでにわかに会いたくなったのですが、お隠れになるとは」と恨み言をいえば、中納言は「蒸し暑いので、こんな格好ですから」というと、宰相ノ中将も「まろも暑苦しいのでそうしよう」といって、装束の紐を解かれて「これなら楽だ」といって腰を下ろされたのでございます。

涼しいところで、昼のお座敷で休憩して、侍女に団扇(ウチワ)で扇がして物語をするのでございました。中納言は紅の生絹(スズシ)の袴に白い生絹(スズシ)の単衣を着て、うちとけた姿に暑さでたいそう気色は匂うようで、常よりも華々として美しく、手つき・身なりも綺麗で、袴の腰紐は緩められて腰つきの鮮やかに透けたる色の白さなど、雪を見ているようで美しく、似る者がないようで、「ああもうダメだ、この様な女がいたら、どれほど心を尽くして惑うだろう」と思い、たいそう物思うようで、乱れて中納言に寄って臥してしまうと、「暑い」とうるさくいっても、宰相ノ中将はいうことを聞かないのでございました。

六十 ものぐるおしき夜

物語などして日が暮れてくると、風は涼しくなり秋が来た気配がするのですが、宰相ノ中将は、起こそうとはしないのでございました。

尚侍(ナイシノカミ)からの手紙もなく、この辺りの年で想いが通じなければ、我が身の跡をなくしてもよいことを重ねていうところなどは、たいそうあはれであるのですが、中納言は「四の君の時もこの様に言ったのではないか。実際に女は、この様に口説かれると、心弱く靡かざるをえなくなるのが気になることだ。お忍びになって、その様に一人の女心を靡かせて、それをまた無きことに思い嘆き、四の君と尚侍(ナイシノカミ)の恋の様に、一人だけではなく、また他の女に寄り添って想いを遂げようとする。如何に隙(ヒマ)なき心の内であろうか」と思いつつ、様々な扱いを受けるので、耐えきれず、

一つにも あらじなさても 比ぶるに

  逢ひての恋と 逢はぬ嘆きと

(一人だけを恋しているのではないでしょう。逢える恋と好きでも逢えない恋と、どちらを悩んでいるのですか。)

と詠んで微笑む様子を見せて紛らわそうとする様子は、すました顔を遠くから見る美しさなど、物の数ではなかったのでございます。

身をぴったりと寄り添い、冷たくはせず乱れている中納言の親しみやすさに、逢瀬をくりかえした四の君への愛も、我がものに出来なかった尚侍(ナイシノカミ)への愛もまったくすべて満たされる想いがするのでございました。

思うがままに素晴らしいので、自分と四の君との関係を知っているかと案じていたことも忘れて、抱きしめて、

比ぶるに いづれもみなぞ 忘れぬる

  君に見馴るる ほどの心は

(比べようとする人は皆忘れてしまった。貴女に馴染んだ心の中から。)

と歌い終わらないうちに、わずらわしいので、「それは頼もしいですね。誰にも離れない形見と思っていて下さるのですね」といって起きようとするのですが、起きられないのでございました。

「本当に何とおかしなことになってしまったことでしょうか。大殿が思し召すことがあったのですが、たいへん暑かったので休んでいたのです。急ぎ立っていかなければ、大殿が心配されます。まず行って参ります」といって起きようとするのですが、宰相ノ中将は、如何に思われたのでしょうか、不思議に別れる心地がしないのでございました。

「我が君」といって離さないで乱れるので、「いったいどうしたのですか、正気を失われたのですか」と強くいってみるのですが、お聞きいれにならないのでございます。

なんといっても、よそよそしくもてなして、きっぱりした外見が男であるのですが、この様に手籠めにされては、どうしようもなく心弱くなり、「これはどうしましょうか」とはずかしく、涙までこぼす様子に、宰相ノ中将は「これは珍しい、あの強気の中納言が」とお思いになるのでございました。

宰相ノ中将にとっては、あはれに哀しきことの多すぎて、一つに合わせてしまった心地がするのでございます。中納言にとっては「怪し」など思いとがめられても、状況の良い時のことだけなのであると思われるでございました。

「女という女は知り尽くした」と思っていたのに、「これほど心にしみて感動することはなかったなあ」と思われるのは、宰相ノ中将の恋心一つに暮らして感じられたことで、「はしたない」など思いもしない事でございました。

一方中納言は、「如何に思われるだろうか」と哀しく、「世にながらえて、ついに我が身の秘密を人に知られてしまった」と、涙もとまらない様子ですが、あはれで愛らしいことは似る者のないほどでございました。

六十一 夢心地の朝

宰相ノ中将も泣きながら、「今は片時も離れていることが出来ないのをどうしたらいいのですか。」とせがむように仰る。夜も明けて来ましたが、起き出す様子もないのでございました。

今は中納言が女であることを知られてしまったので、愚かなことはとうてい出来ない。口を荒立てても、世間話に中納言が女と知られては何の意味もない。「吉野の宮の仰るように、この世のことだけではなく、過去生からの因縁であるのだから」宿命とみなさなければいけないとお思いになるのでございました。

中納言も「外見が普通ではないのですが、それを同情して下さり、人目に可笑しくないようにもてなして下されば、深き御心と思います。人がたむろし、人目が多い処で逢うのはまずいので、いつもさりげないふうに、このような人目に付かない逢瀬なら難しくはないと思います」とたいそう親しげに、慰めるように、宰相ノ中将に申し上げると、宮の宰相も「本当にその通りです」と思うのですが、ただ片時も離れていたくないので、涙をためて別れるのが寂しく思われるのでございます。中納言が返す返す誓い契りて、やっと出て行かれたのですが、この世のことは思われない夢のような心地がするのでございました。

何れ分かる世間の嘲笑を思うと「あゝ死んでしまいたい。」と思うのですが、「殿や母上が自分の姿をみかけなくなれば、どれほど心配なさるだろう」と思うと悲しくなり、この世にいないわけにはいかないと思うのでございました。

六十二 後朝(キヌギヌ)の文

父君は、まず微笑んで、限りない愛情を持って見守りなさり、「今宵はこの館におられたのですか。」と訊くと、中納言は「宮の宰相様が、文のことで聞きたいことがあるというので、わざわざお越しなさったので」と申し上げたのですが、胸がつぶれるような気がするのでございました。

父君が「右大臣の大殿がたいそう心配されているので、人に恨まれないようになさいなさい」と思し召されたので、恐る恐る「人に恨みをもたれるようなことはしておりません」とお答え出来たのがやっとのことでございました。

父君と一緒に食事をして出ようとした時に、宮の宰相から手紙が届き、「死にそうなくらい恋しいのでどうしたらよいでしょう、日暮れにでもお逢いしたい、我が君よ」とあるのでございます。

男姿で手紙に返事をしないのも怪しく思われるので、例のように丁寧に書かれて、

人ごとに 死ぬる死ぬると 聞きつつも

  長きは君が 命とぞ見る


(愛する誰にも死にそうだ死にそうだと仰っているようですが、一番長生きされるのは貴方ではないのですか)

とことさらに書いた筆の勢い、書きっぷりといい目も及ばないほどで、今朝はまぶしいほど立派に見えるのでございました。

「今日の暮れの逢瀬をなんとも書いていない、ダメなのですか」と宰相ノ中将は書いて、たいそう寂しいので、またたち帰り、

死ぬといひ いくらいひても 今さらに

  まだかばかりの 物は思はず

(死ぬといい何をいっても、今だに、かくばかりに深く物を思ったことはありません。)

右大臣の邸宅に着きかけたころに、この手紙を受け取ったので、今さら逢う訳にもいかず、相手の心を傷つけないようにと思うばかりに、

まして思へ 世に類いなき 身の憂さに

  嘆き乱れる ほどのこころを

(まして私のことを思って見て下さい。類いないような身になってしまった自分に、嘆き乱れるつらい心を。)

宰相ノ中将も「そうだ」と思われて、ほろほろと泣けてしまったのでございました。


六十三 心々

宰相ノ中将が右大臣家の邸宅に伺うと、中納言は「人目が気になるので、出て宰相ノ中将に逢えば、のがれることが出来なくなる」と思うのですが、宰相ノ中将が度々訪れるので、中納言は「昼より気分が悪く対面がかないません。お返しはそちらに参ってから致します」とはっきりと口上を伝えたのでございました。

宰相ノ中将はどうしても逢いたいので、「申し上げることがありますので、ぜひ部屋の入り口に出てきて下さい」と思し召しても、「よろしければ、お逢いして、お聞き出来るのですが、胸の奥が痛くてとてもお逢いできません」といってお断りなさるのでございました。

寂しく哀しい限りですが、仕方なく忍びながら、「あはれを知る人(四の君)は伴にいるのだが」と思いながら、この辺りは忘れることの出来ない思い出の場所ですが、人目が気になるのでお帰りになり、薄ぼんやりとして寂しい夜を明かしたのでございました。

中納言も、逢うと引き込まれそうになるので、表には出ることは出来ず、宰相ノ中将は、日々訪ねては返り、甲斐なくて帰るだけしか出来なかったのでございました。

中納言がやっと内裏に出仕する日をお聞きになった宰相ノ中将は、心が時めき、ありありとご覧になる心地は、しばらく逢ってなかった恋人に逢う心地がするのでございました。当日中納言は宰相ノ中将の顔をみると、ぱっと顔が赤らんだのですが、ぐっと冷静になり、礼儀を正して、よそよおそしくなり、宰相ノ中将は傍観しているだけでは、心もとなく虚しい限りでございました。

六十四 帝の御前


帝(ミカド)から中納言へお召しがあったので、お参りになると、いつものように近くに召し寄せて、例の尚侍(ナイシノカミ)の事で、中納言を見守りご覧になるのでございました。

中納言の容貌をじっと匂うようにご覧になり、「尚侍とよく似ていると聞いている。まさに、汝(ナ)が髪を伸ばして化粧をし、額に髪が長くかかれば、天女が天下って来たような麗しさであろう。さらに愛嬌があり華やかなる様は並ぶ人がないだろう」と仰せられて、さらに目を離されず、並々ではない御心地になってしまわれたのでございました。

親しく馴れ合うのは宰相ノ君に懲りていたので、生真面目にかしこまって、世の常でないさまを無愛想に装っていたのですが、飽くことがないようにご覧になるので、なかなか退席がないのでございます。

控えの席にいる宰相ノ中将は、「まろのようにあの人の性をお察しになったら、男姿であっても、脇目をふらずに熱愛なさるのではないか」と想像すると、いつもお目にとめては、このように語らい慣れ親しみなさるのは知っていたのですが、日頃は気にならなかったのに、今は心配で胸騒ぎがして落ち着いてはいられないのでございました。

六十五 目離(カ)れぬ契り

やっと帝の御前(オマエ)を退席したので、宰相ノ中将は待ち受けて、二人離ればなれにならにようにして、内裏(ダイリ)の例の休憩できる場所に連れて行き、宿直することになったのでございます。

この若いお二人がいる時は、殿上人なども関心をもって集まり、宵の頃は騒がしくなるのですが、二人ともひそひそ物語などして、仲間に入れぬようにするので、一人二人去って行き散り散りになった時に、宰相ノ中将が泣くように訴えたりする様はたいそうあはれなのですが、人目が気になるのでございました。

中納言が、「あが君や、誠にまろを愛して下さるなら、余り目立つようにもてなさないで下さい。逢うのが難しく、行き会う逢瀬(オウセ)がないときは、そのように大げさにふるまうことも仕方がないでしょう。普段から向かい合ってご覧になさるときは、何の珍しいこともなく、そのように目立つように振る舞う必要もないはずです。世に類いない有様を軽んじている気がして、心が悲しくなります」と恨み申し上げるのでございました。

すると宰相ノ中将が、「そのように仰ることが残念で仕方がないのです。確かに世の常のように逢瀬がないことはないでしょう。でもだからといって、押し離してご覧になることが、まろにとっては心が迷い例えようもなく寂しいのです」と言われるのでございました。

宰相ノ中将の不満な心境はあはれであるのですが、かといってこの様に人目についても怪しく思われ、世にない身の有様を見抜かれてしまう気がしてしまうので、「でも、人目に見苦しくないようにしてください」と中納言が言うと、宰相ノ中将はとても辛いことのように思ってしまうのでございました。

中納言は四の君のことをほのめかして、「四の君とのことは全て知っておりましたが、我が身は普通ではないので、責めることは出来ないと思い、ただ我慢して見過ごしていました。さるべき時には、いとおしい方を慰めてあげて下さい」と申し上げるのでございました。

四の君のことについては、中納言に迷惑をかけたのですが、中納言は余り恨みに思っていないので、誤解があってはならないことをはっきり言っておかなければならないので、四の君の経緯を述べて、結局四の君では心の満足が出来なかったことを、はっきりと中納言に述べたのございました。

しかし、中納言は「あゝ幻滅だ。類い希な関係をかく述べるとは・・・。これこそが男の移り気ではないか。あはれと思っている時は、ほのめかして話したりしない。しかし、気が変わると、珍しいことがあったかのように人に言ってしまう」とたいそう不安で「これほどの関係でも目が離れてしまう契りがあるものだ」と思うと心が悲しくなってしまうのでございました。





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